高齢者にとって望ましい食事とは何か?

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●高齢者に「粗食」はNG

栄養管理は、年齢にかかわらず、

またどのような健康状態であっても、

手立ての基本は同じです。

 

要介護状態にある高齢者であっても、

もちろんそれは同じです。

ところが実際には、その基本的な考えが

きちんと理解されないまま、

場当たり的な対応が行われているのが実情です。

 

「高齢者には粗食がよい」という考えを

持つ人は少なくありません。

 

病院で行われる、

生活習慣病をはじめとする病気に対応した

抑制的な食事をとっていれば、

生涯を健康に過ごせるという

思い込みがもとになっているようです。

 

しかしこの考えは誤りです。

 

なぜなら、高齢者の方々というのは、

病気を乗り越え、あるいは共生できる

レベルにコントロールできたために

高齢期を過ごせているのであり、

 

それ以前に大きな病気にかかった人は

そのダメージにより多くが高齢期を

迎えられないからです。

 

つまり、高齢期を迎えた人に、

病気のみに着目した食事を

当てはめることは適切ではないのです。

 

まして、人は高齢になるほど

様々な病気にかかります。

 

そこで個別の病気をコントロールする

食事ではなく、様々な病気にも対応できる

食事が必要になるのです。

高齢者に適した、様々な病気に対応できる

食事とは「老化を遅らせるための食事」です。

 

老化は、骨と筋肉が衰えることです。

 

骨と筋肉は、主にたんぱく質で構成されており、

骨と筋肉の衰えは、からだのたんぱく質が

失われることを意味しています。

 

「老化」という変化そのものが、

身体の栄養状態が低下していく変化と

理解しなければなりません。

 

粗食になってはならないのは

自明の理なのです。

 

●栄養状態の低下は“お尻”で見極める

栄養状態が不良になると、

まず現れるのが貧血です。

 

高齢者の貧血は軽く見てしまいがちですが、

70歳以上では

約5人に1人が貧血の疑いがあります。

 

貧血が起こると、歩行障害や引きこもり、食欲不振、

特に高齢者では短期記憶の障害にもつながるため、

予防と改善は非常に重要です。

 

お尻が“ハリ”がなくなり、太ももが細くなっていたら、

貧血を疑い、食生活を見直してみてください。

 

●より高い水準の栄養状態を目指す

栄養状態の低下を判断する指標として、

医療機関では、血清アルブミン値3.5~3.8g/dl以下を

改善対象と判断します。

 

しかし実際に高齢者のアルブミン値が

その程度まで低下すると、回復が困難になります。

 

アルブミン値が医療機関の基準以下に

ならないことを目指すのではなく、

より高いレベルを目指すという、

発想の転換が必要です。

 

したがって、

高齢者の血清アルブミン値は3.5~3.8g/dlではなく、

多くの先行研究成果に基づき4.3g/dl以上に

維持することが科学的に妥当と考えています。

 

たんぱく質の摂取量は、男性70~75g、

女性60~65g(国の推奨量は男性60g、女性50g)を

目安とすることを勧めています。

 

まずは肉類・卵・牛乳・油脂類・魚介類の

5つに重点を置いて摂ることを心がけてください。

 

特に意識的に食べてほしいのが肉類です。

 

肉は私たちのからだのたんぱく質組織と構造が

似ている好都合の栄養食品です。

 

また加熱処理によって繊維状になり、

噛み応えがあって旨みが出やすくなります。

 

それから肉の脂身に含まれる飽和脂肪酸は

すぐにエネルギーになる脂肪で、

摂取したたんぱく質を骨や筋肉に

作り変えるためのエネルギーになります。

 

そのため、脂っこい肉は特に有効といえるでしょう。

 

●「コレステロール」よりも「歩く力」がリスクに

肉や油脂類に含まれるコレステロールは、

高齢期においてはさほど気にする必要はありません。

 

確かに中年期は高コレステロールが

心臓病やすべての死亡のリスクとなりますが、

60歳を超える頃からそのリスクは

急速に低下します。

 

そして70歳以降になると

むしろコレステロールが高いほうが

リスクは低くなるということが

国際的な認識となっています。

 

70歳以上で問題となる病気のリスクファクターは、

コレステロールではなく、

老化の程度が反映された「歩く力」です。

 

そのため高齢者には可能な限り

体を動かしてもらってください。

 

要介護3くらいで、

手押し車を使って歩ける人でも、

1日20分×3回を目安に歩くことを

勧めましょう。

 

横になったり座ったりする時間を

減らして立位を維持し、

骨髄を刺激して貧血を予防し、

筋肉がこれ以上減っていかないように

することが重要です。

 

●食事の提案はケアマネジャーが適任

要介護者の中には、嚥下困難で

食事がままならない人もいると思います。

 

そのような人には、たんぱく質よりも

エネルギー摂取を優先してください。

 

しかしそのような人は、要介護者の

なかでもとても少数です。

 

ケアマネジャーに期待することは、

大多数を占める要支援~要介護3くらいの方で、

常食を食べることができながらも、

栄養状態が低下し、要介護度が進行する

おそれがある人に対して

食事のケアをしていくことです。

 

常食を基本とした、一定の噛み応えがある、

おいしく感じる食事を

提案していただきたいと思います。



 

さらに今後は、

要介護者のケアデザインだけでなく、

自立した高齢者が要介護にならないための

ライフスタイルの提案もできるようになれば、

日本の未来は明るいですね。

 

今のところ、ケアマネジャーとして

取組むのはむずかしいと思います。

 

しかし、近い将来、

必ず必要とされる時が来ます。

 

今後、ケアマネジャーとしての

職責と社会的価値を高めていくためには、

この視点をふまえ、高齢者の栄養が

どうあるべきかを

しっかり考えていただきたいと思います。

 

大切なことは、高齢者の食事を

ホームヘルパーや管理栄養士に

任せてしまわないことです。

 

「老化」は、疾患ではなく、

高齢者の健康問題の本質です。

 

医療者は、

病気に対応した栄養指導はできますが、

老化を遅らせるための指導技術を

身につけるのはこれからです。

 

そこでケアマネジャーの方々にも、

自立した高齢者が元気であり続けるための食事、

要介護者の要介護度をこれ以上進めないための食事

の提案ができるようになってほしいのです。

 

 

●1990年代から介護予防の重要性に着目

介護保険制度が初めて実施されたのが2000年。

介護予防の重要性が認識され、

施策レベルで取り組むようになったのが2002年。

 

熊谷先生は、

そのはるか10年も前、東京都老人総合研究所

(現・東京都健康長寿医療センター研究所)に

在籍していた1991年に、

都民などを対象として、高齢者の健康寿命を

実現するための介入研究を行いました。

 

「老化を遅らせ要介護を予防する」ことを目指す、

世界的にみても先進的な取り組みです。

 

介入研究というのは、文字通り、

対象者の生活や行動を意図的に

コントロールする研究のこと。

 

例えば医学分野であれば、薬を投与して、

投与前後あるいは非投与者と

比較してその効果を検証します。

 

しかし熊谷先生が行った研究は、

人生のバックグラウンド、

価値観の異なる高齢者の方々に対し、

ライフスタイルに介入して食生活や

生活習慣の改善効果を検証するというものであり、

当時は相当な困難もあったといいます。

 

だが、先生は

「これが自分の天命」と考えて取り組み、

結果として画期的な研究結果が得られました。

 

「高齢者にはとにかく肉」と繰り返す

熊谷先生のお母様も要介護3とのこと。

 

なんとコンビーフを食べているそうです。

おすすめはコンビーフサンドだという。